日々考えよう


by kunihisaph
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田上孝一『実践の環境倫理学』

田上孝一『実践の環境倫理学』(時潮社)

mixiで親しくさせていただいている,応用倫理の専門家・田上孝一氏の著書.

第1部で原理的な考察をし,みずからの立場を明確にした上で,第2部において具体的な事例,肉食・タバコ・車について,それがどのように環境を汚染し,倫理的にいって不必要なものであるかを説く.

反論を十分に考慮しつつ,論理的に議論を展開している点は教科書としてすばらしい出来です.特に本書は,ベジタリアニズムについても詳細に説いていますが,このようなものは日本では珍しいでしょう.

著者とは,一度議論したことがあり,倫理のもっとも基本的なところで相容れない部分があるのですが,私が非専門家であることもあって,それはもう「私はこう思う」「いや,私はこう思う」というレベルに話にしかなりそうにないので,今回はそれについてはおいておきます.

それとは別に,読み終わって感じたことがあります.それは,ここで具体的に挙げられている3つの事例,そしてとりわけタバコと車に関して,はここで改めてその害悪を説く必要があるのだろうか,ということです(もちろん,「教科書」として,環境倫理を学ぶ学生たちに,「それぞれが有害である」というときに具体的にどのような論拠があるのかを示すことに意義がありますが).

中学校では,喫煙者の肺の内部の写真を見せられて喫煙が健康に悪い,ということが説かれたりするらしいですし,車の排気ガスが環境に悪影響を及ぼすという話もされます.

学校のみならず,テレビを見,新聞を読めばいたるところにこれらがいかに害悪かということがうるさいくらいにいわれています.

もちろん,おそらく多くの人が知らないであろうような点についても顧慮されているし,決して「読んでも無駄」というものではないことは断言しますが,しかし疑問符がついてしまう.

というのも,問題は別のところにあるような気がするからです.

おそらく多くの喫煙者や自家用車の利用者は,それが害悪をもたらすことはよくわかっているのではないでしょうか.わかっているけど,それでもあえてそれを選択しているか,なんらかの表面的な論理で言い訳をしているか,もしくはそれを意識の下へ押し込んでしまっているかのような気がします.

ベジタリアニズムに関しても,ここに書かれているほとんどのことはたしかに日本人の多くは知らないことかもしれませんが,しかし,「生命を尊重する」という観点からすると,特にあらためてベジタリアニズムの利点について説かれなくとも,肉食者の多くがわかっているのではないでしょうか.

それに肉食の環境に対する影響も,私のようなあまり倫理に関心のないものでさえ,いままで何度か眼にしたことがあります(たとえば,マク○ナルドのハンバーガー1個に対し,牧草地が何平方メートル必要であるとかなんとか)

もちろん,ベジタリアニズムについては,本書にも書かれているように多くの誤解があるため,「興味はあるけど,ふみきれない」ひとはいるでしょうので,そういう人たちの背中を押す,という役目に関しては十分に意味があると思いますが.

しかし,本書に「環境破壊をもたらすような現実的な生活過程のあり方が,自らの正当化のために人間中心主義を要請する」(60頁)とあるように,環境擁護説に対する反論の多くは学問的に真理を追究するためであるというより,自身の生活様式に対する弁護であるような気がします.

すると,いくら論理的に正当な意見を述べてもそれで彼らが生活様式を変えるということがあるのだろうかという疑問が生じるわけです.

もし著者がこれらの「悪習」を社会から排除しようとするならば,単にその害悪を説くだけでなく,何かもっと別の分析,対策が必要であるような気がします.

おそらく,上のような疑念は本書を読んだ多くの人が一読,感じると思います.しかし,もう一度,前書きと序章を読み返すと,本書の意義は,単にこれらの害悪を説くということにあるだけではなくて,実はこの3つを同時に扱っているということにあることがわかります(そしてこれら3つを同時に扱った倫理学書は珍しい).

つまり,本書で著者の訴えたい一番のことは「首尾一貫した人生を送るべし」ということにあるのです.

前書きに書かれているように,車を批判する人が喫煙したり,喫煙を批判する人が車に乗ったり,そして車や喫煙を批判する人が肉食をする.そのような生き方は倫理的に首尾一貫した人生ではない.それはなぜなのか,というこを明確にし,意識させることが目的なのです.
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by kunihisaph | 2006-08-11 16:08