代替医療のトリック/現代医学に残された七つの謎
2010年 03月 07日
サイモン・シン『代替医療のトリック』
http://www.amazon.co.jp/dp/4105393057/
原題はTrick or Treatment?とうまいタイトルなのだけど,邦題はやや味気ない.
各所で話題のサイモン・シンの新作.うむ,あいかわらずおもしろい.
フェルマーの定理もそうだったんだけど,同じようなテーマを扱っている他書よりも彼の書いた本はずっと読みやすくおもしろい(けどレベルを落としているわけではない)のは一体なんでなのだろう?このあたりのテクニックは研究する価値がある気がする.
で,鍼,ホメオパシー,カイロプラクティック,ハーブ療法について,
通常医療と比べて効果があるかどうか,危険性はないのかを論じていく.方法論についてちゃんと議論されているのもよい.
鍼というのは効果があるものだと思っていたのだけど,そうではないらしい.鍼の効果については科学的な研究も最近まで質の高いものはなかったようで,2003年のWHOの研究では効果ありとされていたのだが,これは問題がある研究だったようだ.現在では,いくつかの痛みや吐き気には効果があるかもしれないけど,それも通常医療を上回るものではないし,ほかの症状に関しては効果がないという結論に収束しつつあるらしい.危険性については,熟練の鍼師ならば,不潔な鍼を使うことによる感染にさえ気をつければ害はあまりないとのこと.
ホメオパシーは,プラセボ以上の効果はまったくない.まあそりゃそうだろう.
カイロプラクティックってただの整体だと思っていたら,妙な思想をベースにしてできた「どんな病にも効く」療法なんですね.もっとも,現在では「ミキサー」といって,あまりエキセントリックな主張をしないカイロプラクターもいるらしい.ミキサーによる治療ならば,腰痛に関しては多少の効果はあるかもしれないらしい.ただ,理学療法と比べてとくに効果があるわけではないし,下手に頚椎をいじられると重篤な障害が出る可能性があるので,わざわざ高い治療費を出して理学療法ではなくカイロプラクティックに頼る必要性はない.
ハーブ療法は,まあハーブ自体が現在通常医療で使用されている薬のもとになったものもいくつかあるのだから,効くことは効くようです.ただ,通常医療の薬より効くというわけではないし,他の薬と併用する際の相互作用のことも考慮しなければならない.
で,プラセボでも結果として治ればいいのではないか,という意見もあるが,確かに治ればいいのだけど,こういった代替医療を信用するあまり,通常医療を受けることを拒否して取り返しのつかないことになる可能性を考えなければならなし,通常医療ならば,じっさいの効果+プラセボ効果があるわけだから,わざわざプラセボ効果しかない代替医療を,それも高いお金を出して受ける必要はないという議論は,そのとおりだと思った.
また,一方で,このような代替医療が広がったことの責任者として医療研究者が挙がっていた.これは疑似科学一般についても,その責任の一端が科学者そして科学哲学者にあるということにも通じていると思う.
・杉晴夫『現代医学に残された七つの謎』
http://www.amazon.co.jp/dp/406257652X/
鍼灸治療効果の謎/磁場の人体に影響を及ぼす影響の謎/睡眠の謎/「病は気から」の謎/「天然のリニアモーター」筋肉の謎/記憶のメカニズムの謎/人体の設計図の謎
といった7つのなぞについて解説.著者自身の専門は筋収縮.
鍼灸治療の謎では,鍼灸の効果は科学的に実証されたという前提での議論になっている.古いデータを参照にしてしまったのかもしれない.
磁気治療についてはサイモン・シンの上掲書でも言及されているが,少なくとも静磁場がなんらかの症状に効くという科学的根拠はない.
しかし,著者はピップエレキバンの製造元の役員にテストを頼まれことがあるらしい.厚生省から(エレキバンの製造元への)お叱りがあったそうだ.
で,マウスでテストをしてみると,血流増大の効果はあったらしい.ただ,これも個体差があるし,人体の実験はやっていないし,治療に効果があるかという実験もやっていない.
http://www.amazon.co.jp/dp/4105393057/
原題はTrick or Treatment?とうまいタイトルなのだけど,邦題はやや味気ない.
各所で話題のサイモン・シンの新作.うむ,あいかわらずおもしろい.
フェルマーの定理もそうだったんだけど,同じようなテーマを扱っている他書よりも彼の書いた本はずっと読みやすくおもしろい(けどレベルを落としているわけではない)のは一体なんでなのだろう?このあたりのテクニックは研究する価値がある気がする.
で,鍼,ホメオパシー,カイロプラクティック,ハーブ療法について,
通常医療と比べて効果があるかどうか,危険性はないのかを論じていく.方法論についてちゃんと議論されているのもよい.
鍼というのは効果があるものだと思っていたのだけど,そうではないらしい.鍼の効果については科学的な研究も最近まで質の高いものはなかったようで,2003年のWHOの研究では効果ありとされていたのだが,これは問題がある研究だったようだ.現在では,いくつかの痛みや吐き気には効果があるかもしれないけど,それも通常医療を上回るものではないし,ほかの症状に関しては効果がないという結論に収束しつつあるらしい.危険性については,熟練の鍼師ならば,不潔な鍼を使うことによる感染にさえ気をつければ害はあまりないとのこと.
ホメオパシーは,プラセボ以上の効果はまったくない.まあそりゃそうだろう.
カイロプラクティックってただの整体だと思っていたら,妙な思想をベースにしてできた「どんな病にも効く」療法なんですね.もっとも,現在では「ミキサー」といって,あまりエキセントリックな主張をしないカイロプラクターもいるらしい.ミキサーによる治療ならば,腰痛に関しては多少の効果はあるかもしれないらしい.ただ,理学療法と比べてとくに効果があるわけではないし,下手に頚椎をいじられると重篤な障害が出る可能性があるので,わざわざ高い治療費を出して理学療法ではなくカイロプラクティックに頼る必要性はない.
ハーブ療法は,まあハーブ自体が現在通常医療で使用されている薬のもとになったものもいくつかあるのだから,効くことは効くようです.ただ,通常医療の薬より効くというわけではないし,他の薬と併用する際の相互作用のことも考慮しなければならない.
で,プラセボでも結果として治ればいいのではないか,という意見もあるが,確かに治ればいいのだけど,こういった代替医療を信用するあまり,通常医療を受けることを拒否して取り返しのつかないことになる可能性を考えなければならなし,通常医療ならば,じっさいの効果+プラセボ効果があるわけだから,わざわざプラセボ効果しかない代替医療を,それも高いお金を出して受ける必要はないという議論は,そのとおりだと思った.
また,一方で,このような代替医療が広がったことの責任者として医療研究者が挙がっていた.これは疑似科学一般についても,その責任の一端が科学者そして科学哲学者にあるということにも通じていると思う.
・杉晴夫『現代医学に残された七つの謎』
http://www.amazon.co.jp/dp/406257652X/
鍼灸治療効果の謎/磁場の人体に影響を及ぼす影響の謎/睡眠の謎/「病は気から」の謎/「天然のリニアモーター」筋肉の謎/記憶のメカニズムの謎/人体の設計図の謎
といった7つのなぞについて解説.著者自身の専門は筋収縮.
鍼灸治療の謎では,鍼灸の効果は科学的に実証されたという前提での議論になっている.古いデータを参照にしてしまったのかもしれない.
磁気治療についてはサイモン・シンの上掲書でも言及されているが,少なくとも静磁場がなんらかの症状に効くという科学的根拠はない.
しかし,著者はピップエレキバンの製造元の役員にテストを頼まれことがあるらしい.厚生省から(エレキバンの製造元への)お叱りがあったそうだ.
で,マウスでテストをしてみると,血流増大の効果はあったらしい.ただ,これも個体差があるし,人体の実験はやっていないし,治療に効果があるかという実験もやっていない.
by kunihisaph
| 2010-03-07 16:59
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