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日々考えよう


by kunihisaph
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光速度が有限であることと過去の実在性

内井惣七『空間の謎・時間の謎』(ちくま新書).

日本では珍しい時空の哲学についての入門書.

全体的に面白くて勉強になったが,ちょっと気になったところが.

「光の速度は有限だから今われわれが見ている星の姿は過去のものである.それを考えると,『過去は実在しない』という言明はおかしいことがわかるだろう」というようなことが書かれていました(正確にこういう表現だったかどうかは忘れた).

まあ,この著者が言うように,時間論を考える際に,せっかくの科学の成果をまったく考慮しないのも,哲学的天才ではない人間にとってはもったいないわけですが,それはそれとして,しかし,上の主張は,純粋に哲学的な議論と科学的知識を前提にした議論をわけずにしている乱暴なものだと思います.

過去の実在で問題になるのは,過去はあくまで過去であり,その定義上いま現在目の前にそれがないということなわけです.

「光速度が有限だからわれわれは星の過去の姿を見ている」という議論が成り立つならば,ある物体の写真を撮って,それを現像した後で見るならば,それはその物体の過去の姿(写真を撮った時点での姿)を見ていることになり,やはり「過去は実在する」という議論も成り立ってしまうでしょう.

科学的にはわれわれの眼に届いた光は星の「過去の姿」の情報を運んだものであっても,今われわれが見ているものは現在の(その情報をもった)光なのであり,やはり「過去そのもの」を見ているわけではないはずです.

過去の情報を持っているものをいま見ていることと,過去そのものを見ていることはまた別の話なはずなのです.
by kunihisaph | 2006-02-14 14:55 | ヘリクツ/疑問/雑学/読書